広辞苑大学レポート。

広辞苑大学レポート | 2018年1月12日

広辞苑大学、開講!

岡本厚氏(岩波書店代表取締役社長) / 養老孟司氏(東京大学名誉教授)

 

2018年1月12日。広辞苑が10年ぶりに改訂され、第7版が発売となった。これを記念し、今回行われたのは、広辞苑大学。大学と名付けて、各界の著名人がことばにまつわる様々な講義を行うのだ。今回の開催は1月12日〜14日。東京のアーツ千代田3331で。今後は講師や開催地を変えながら、開催される予定だ。



第1回の広辞苑大学が開講されたアーツ千代田3331は、もともと中学校だった建物を展示やセミナーなどの場として利用できるように改装した場所。中に入ると学校さながらの場所もたくさんあるところで、開講セレモニーが行われたのも体育館だった。暖房器具がなく、広くて寒い体育館だが、なんとなく「全校集会だ!」という気持ちになりテンションも上がってしまう。

作家、バーテンダー、アーティスト。
講師陣は自由で、豪華。

セレモニーに登壇したのは、広辞苑大学の「学長」こと、岩波書店代表取締役社長の岡本厚氏。広辞苑改訂に伴う思いとともに、今回の広辞苑大学開講に関することにも、アツい想いを聞かせてもらえた。

広辞苑は今回で第7版だが、広辞苑大学のようなリアルな場でのイベント・講義を行うのは初の取り組み。「ことばのプロである錚々たる講師陣をお招きしており、みなさんにことばの面白さや楽しさを知ってほしい」と語っていた。

岡本氏のことばどおり、広辞苑大学の講師陣はたしかにめちゃくちゃ豪華だ。「ことばのプロ」と聞いて最初に思い浮かびそうな作家や詩人、作詞家を職業とする方はもちろん、アーティスト、料理人、バーテンダー、放送作家。何を学べるのか、どんな楽しいことが起こるのか、予想のつかない講義ラインナップに、ワクワクがとまらない。子どものころは辞書なんて好きでも嫌いでもなかった気がするが、大人になったらこんなにことばを学ぶことが楽しくなるのかと思ってしまう。贅沢だ。貴族の遊びなのかもしれない。

辞書をひくことは、

知識だけでなく体験も得られるものである。

岡本氏は開講挨拶の中で、広辞苑のふたつの使い方について語ってくれた。

ひとつは、意味を調べる。いわゆる辞書をひく、という使い方。いつも何気なく使っていることばでも、ひいてみると新たな発見があるかもしれない。そのことばは、どういう意味をもっているのか。広辞苑の中では、どんな表現がされているのか。そこを注意して見てみてほしいと。

もうひとつは、紙の辞書としての魅力だ。広辞苑を手に取ったら、その重みや厚みを感じ、本の手触りを感じてほしいということ。自分が探したことばがどのあたりのページになるのか。右ページなのか、左ページなのか。何段目に書いてあったか。紙の質感、香り、そういったものも含めて感じよう。岡本氏は「紙の辞書は、それらすべてを感じる、経験そのものなんです」と言う。

さらに「広辞苑は知識だけでなく、経験を得られるものでもあるのです」と岡本氏は強調する。「そうやって、経験を詰め込んだ辞書になれば、それは他の広辞苑とは違う、自分だけの1冊の辞書になる。インターネットの時代だからこそ、紙の辞書でしかない経験を是非してほしい」。

余談だが、筆者が帰って調べたところ、広辞苑には未だ「ググる」の記載はない。謎のプライドを感じてしまった。

岡本氏の挨拶のあとには、講義も担当している養老孟司氏からの祝辞が送られた。「ことばはいろんな人がいて、いろんな使い方をする。でもそこにあえて『スタンダード』が存在するとするならば。そのスタンダードは辞書だけが担えるものであり、広辞苑はその代表格なのです」。

最後にふたたび岡本氏が登壇し、開講宣言が行われる。

「ただいまより、広辞苑大学を開講します」

マイク無しでも体育館中に凛と響きそうな宣言のあとには、学校らしく、チャイムが流れ始める。懐かしい音に、参加者たちからは拍手とともに笑い声も。さあさあ、ことばについて学んだり、遊んだり、発見を得たり。様々なことを体験できる講義の始まりである。どの講義で、どんな楽しみ方をしたっていい。ことばは、自由だ。面白がっていこう。

 

Text:山縣杏 / Photo:鈴木渉、田頭慎太郎、他

岡本厚氏(岩波書店代表取締役社長) / 養老孟司氏(東京大学名誉教授)

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